港町の山小屋だより

2021年5月、被災地石巻に焼酎と洋楽を楽しむBAR「山小屋」がオープン。東京でサラリーマンをしながら毎週末に石巻に帰ってバーを開く生活を続けて2年。そして2023年4月、37年ぶりに石巻にUターン。昼間の事務職とバー経営の二足のワラジを履くオーナーYがゆるーく情報発信しています。

石巻で働いて3ヵ月が経った

最近はnoteばかりで、hatenaに書くことが少なくなった。4月に完全移住したというのに、何も書いていないことに気づいて、あわててアップする次第。いちおう3ヶ月が経った、というテイにしておく(実際に書いているのは7月中旬)。

働きはじめて三日でいやになった。耐えられなかった。朝8時出勤、朝の掃除、ラジオ体操、朝礼で今日一日のスケジュールと全体目標の確認、「職場の教養」の音読、経営理念の唱和、神棚への拝礼…。今までやったことのない所作の連続。石巻ではこれまでの労働文化とまったく違うのだと覚悟していたとはいえ、実際にやってみると、激しい自己嫌悪に襲われた。

活力朝礼の様子(ネットから拾った画像)

「そんなことをして恥ずかしくないのか」

「お前はこんなことのために東京の生活を棄てたのか」

耳元でささやく声がする。声の主はオレだ。「恥ずかしくない」「そうだ、そのために帰ったのだ」と、胸を張って言いたいところだが、どうしても言えない。

「違う。これは石巻で働くイメージじゃない。大失敗だ」

これがいつわらざる答えである。しかし、だから辞めるというのは、違う。もちろん何度も考えた。「明日、所長に辞表を出そう」と布団のなかで考える日々が続いた。でも出さなかった。出す勇気がなかったとも言えるが、とりあえず1ヵ月働いてみよう、2ヵ月働いてみよう、あともう1ヵ月…と保留を繰り返しただけのこと。

朝が早いくらい、何だ。冷たい水で雑巾を絞ったり神棚を拝んだりが、何だ。石巻の人は、これを当然のようにやるんだぞ(正確には、倫〇法人会に加入している石巻の会社の人は、だろうか)。同じことをやってやろうじゃないか。それが「石巻で働く」ってことじゃないか。

このオレが満を持して石巻で働くのだから、相応の働き方じゃないと格好がつかない――などと考えていたフシがあった。震災遺構となった母校・門脇小学校で伝承活動をしながら働くとか。あの先輩と同じように、地元新聞社に再就職をして記事をバンバン書くとか。だが、いっさいそういう方向への働きかけをしなかった。街で「山小屋」をやっている以上、それ以上(?)の仕事に就くことはバランスを欠くと考え、昼間の仕事は糊口をしのげればよく、運送会社や水産加工工場で働けばよい、と考えていた。それがたまたま事務職に恵まれた(ハローワーク)。

スーツにネクタイをして車で通勤する生活が始まった。8時始業とやや早いが、東京で9時半始業のために家を出る時間とそんなに変わらない。その代わり17時で終わるので、早いときは18時には家にいたりする。明るい時間に家にいることが不思議で仕方がない。東京なら20時に出て21時に新宿近辺をうろつき、バーやスナックに寄って午前様は当たり前だった。それら通勤や遊興の時間がスッポリ消えた(たまには飲むけれど)。

さらに、バーをやるために石巻に毎週帰る往復時間も、スッポリ消えた。こちらのほうが膨大だ。月にして30~40時間。通勤時間も加えると、100時間近い自由な時間が増えたことになる。これはとんでもないことだ。逆に、今までその時間、何をしてきたのだろうか? たいがいはスマホをいじっていただろう。それだけはしない。映画を観たり、本を読んだり、ギターのレッスンをしたり、あるいはこうしてブログを書いたり、母親の短歌を入力したり、自身の裡に何がしかを蓄積させるようなことに費やしたい。

それでも、バーを経営する経費が重くのしかかる。黙っていても月に7~8万が出ていく。これを回収するのが当面の課題だ。3月から始めた一日店長制度も、最初のころはよかったが、マンネリ化したのか精彩を欠いている。ほんとうはこのシステムで月20万円の売上がほしい。店長4人として一人5万。月に2回やってくれればできない数字じゃない。オーナーとしてその3割をいただく(酒などの原価込み。安すぎる?)。そうすれば店は維持できる計算だ。それでもマイナスだが。

そのあたりが「山小屋さんは趣味でやってるんですよね」と言われる所以だ。生活がかかっていないことを、皆そう言う。何だろうね、ヒトが必死でやっていることを「趣味ですよね」ってバッサリ斬る感覚って。ハイハイ、どうぞマウントとって気持ちよくなってください、としか言えない。

ともかく、だ。朝礼とか日報とか、ルーティンワークに揉まれながらも生活はできている。第一関門、めでたく突破ということにしておこう。移住後の生活については、随時書いていきたい(noteとの使い分け方がイマイチわからないけれど)。