港町の山小屋だより

2021年5月、被災地石巻に焼酎と洋楽を楽しむBAR「山小屋」がオープン。東京でサラリーマンをしながら毎週末に石巻に帰ってバーを開く生活を続けて2年。そして2023年4月、37年ぶりに石巻にUターン。昼間の事務職とバー経営の二足のワラジを履くオーナーYがゆるーく情報発信しています。

天津飯探訪記at石巻

1月からこんなことを始めた。きっかけはいろいろある。

日高屋新メニューに天津飯が加わったこと(今もよく食べる)

・中国天津でオミクロン株が急拡大したニュースで天津飯や天津甘栗の話題が出た(日本でどのように天津飯が定着したか)

・友人のインスタで市内中華の天津飯が紹介されたこと(東日本では珍しい塩味だった)

日高屋以外では天津飯を食べることは少ないが、卵料理は好きなので食べ歩きして味を調査するのも面白いかなと。全部は回れなかったが19店ほど調査して17杯の天津飯を食べた。

そもそも天津飯は中国オリジナルではなく日本発祥の料理。詳しくはググっていただきたいが、味つけには地域差がある。関東は甘酢あん、関西は塩味が主流だ。大阪の人が東京で天津飯を食べると酸っぱいのに驚くという。

食べ歩きの話をすると大抵が「なぜ天津飯? ラーメンとか炒飯にすればよいのに」という。実はここが天津飯の面白いところ。誰も天津飯なんかに期待していないのだ。野球でいえば7番バッター。中華料理屋に行って、さぁ今日は中華を食うぞというときに、まず候補に上がらないメニューだ(かに玉は別として)。思い入れがないので、天津飯食べ比べと言われても意味がわからないのだろう。

作る側も似たようなもの。「うちの自慢は天津飯です」という店はほとんどない。おそらく大した研究もせず、こんなもんかと適当に味つけをしていると思われる。石巻に限らず全国的にそうだろう。

実は石巻にいた頃に天津飯を食べたことがない。南浜町のクサカストアのところに新しい中華料理店が出来たとき、雲雀野グラウンドで親父とキャッチボールをした帰りに寄って、親父が天津飯を頼んだので初めて知った(店の名前が思い出せない。親父と同級生だったから鰐陵23回生と思われる)。天津飯を初めて食べたのはよく覚えていないが東京だろう。だから甘酢あんのイメージが強い。

前置きが長くなったが、そんな天津飯石巻でどのように提供されているのか知りたくなったのだ。足掛け5ヶ月にわたり食べ歩いた17杯の天津飯。以下に店名、味つけ、写真、コメントを列記していく。

1 南華園(醤油甘酢)

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記念すべきスタート。ここは何でも黒い。味つけも強め。小学4年の時にここで初めて「かた焼きそば(揚げそば)」を食べて、世の中にこんなにうまい食い物があるのかと驚愕した。中学に上がると中華麺を油で揚げて自作したほどだ。そんな思い出の店(今はかた焼きそばはやってない)。

2 北京大飯店(醤油甘酢)

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大街道の有名店。家族でよく行った。表に天津飯のノボリがはためいており期待大。甘酢あんが別添えで供されたのには驚いた。といって自分でかけるのが楽しいわけではない(笑)。石巻を代表する老舗だけあって恥ずかしくないお味。

3 桂花(醤油甘酢)

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3〜5の3店はかつて門脇にあった食堂だ。子供の頃に何度も行っている。駅前の桂花は横浜梅蘭風焼きそば(麺の中にあんかけを閉じ込める)や卵白チャーハンなど工夫する店なのだが天津飯はいたって平凡。美味しいのだが、また食べたいというほどでもない。

4 一龍(醤油甘酢)

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青葉の人気店。ここが移転した後に桂花ができた。いつも混んでいる。酢はきつくなくゆるい餡がサラッとかけてあり主役の卵を楽しめる。安心の味。

5 東京屋食堂(醤油甘酢)

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ここは大衆食堂なので中華の作法からやや外れているかもしれないが、そのぶんダシの旨味を感じさせる。椎茸やタケノコも入って具沢山。半ラーメンもつけて満腹だ。

6 小西湖(塩)

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湊の町中華代表格。朝一番に行ったらすぐ満員になった。どんな天津飯かと思ったら塩味。石巻で初めてだ。これも卵をしっかり際立たせている。そもそも卵焼きに醤油というのはくどい味つけなのだ。反面あっさりし過ぎか。やや物足りなくもある。一緒に付けた半ラーメンのスープも薄味だった。お年寄り向き?

7 温州菜館(ケチャップ甘酢)
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出た。第三の味。中華でケチャップ味は、チキンライスを筆頭に町中華の王道だが、この店は本格中華のはず(料理人が大陸の方)。酢豚もケチャップなのだろうか? でも洋食風で嫌いじゃない。スープが牛テールスープみたいで美味しかった。

8 デリシャス(醤油甘酢)
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蛇田の人気店。初めて入った。ファミレスみたいでやたらメニュー豊富。味つけもクセがなく標準的。老若男女が楽しめる味にしている。それでいてここは裏メニューがあるらしい。移住したら通いたい店。

9 とらの子(醤油甘酢)
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新居近辺、山下地区ローラー作戦第一弾。ここは町中華と本格中華の中間という趣き。中華好きの親父が生前通っていた。他店より1割ほど高めだが量も多い。卵はフワトロではなくしっかり固めるタイプ。好み。たぶんどれも美味しいのだろう。近くに引っ越してきてよかった(出前もしてくれそう)。

10 長寿飯店(ケチャップ甘酢)
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第二弾。船で食事係だった店主が陸に上がって開いた店と聞く。店名も店構えも本格中華っぽいが町中華だろう。ケチャップ味だが風味を効かせる程度。メニューに山東麺とあるのが気になる。

11 雲雀(醤油/オイスターソース)f:id:bar_yamagoya:20220603135202j:image

第三弾。街なかから越してきた上海の方のお店。こういう料理人が作る天津飯はどうなるかという好例。おそらく中華飯と同じ味つけだろう。料理人として卵焼きに甘酢は合わない、と考えているのかもしれない。料理としてはたしかに美味いが、天津飯とは言えない気もする。食べる側の問題だが。ちなみに雲雀ではいつもルーロ飯を食べる。餃子も美味しい。

12 福龍飯店(醤油甘酢)
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数年前に初めて存在を知った店。里山にポツンと建っている。旧河南高校に近いので親父も通ったかもしれない。メニュー豊富で炒飯だけで10種類ある。王道のこれぞ天津飯。脳が欲する味(笑)。「料理が美味しい」というのはそういうことなんだろう。ここも通いたい。

14 南京飯店(醤油)
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BSの町中華探訪番組で長寿飯店とともに紹介されていた。驚いたのは天津飯を頼むと「醤油、塩、ケチャップのどれにしますか?」と訊かれる。悩んだ末に最もマイナーな醤油にした。美味いのだがボンヤリ。客に選ばせるのは面白いが、なぜ甘酢が選べないのかが謎だ。ここの人に「天津飯とはどういう料理ですか?」と訊いてみたい。

15 裕味(醤油甘酢)
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3.11セレモニー翌日に兄貴と行ってみた。中里で30年以上やっているという。兄貴は中華そば。「初めての中華店はラーメンに決まってるだろ」という顔をされた。ひと口食べたら、確かにここの自慢料理ではなさそうだと感じた(失礼ながら)。独自の工夫をせずとも成立し、食べる側も大した期待をしない、そこが天津飯の深い悲しみ。

16 楼蘭(塩味)
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街なかの本格中華。友人がここの白い天津飯をインスタに上げていた。目の前に運ばれても見た目から味が想像できない。鶏ガラスープのダシだろうか、上品な味わい。美味しいが、何が何でもこの味を食べたいということでもない。やはり天津飯を口に入れるときの脳は、甘酢を欲しているようだ。

17 紅蘭(ケチャップ甘酢)
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結果的にここが最後になった。かなりケチャップを入れている。酸味がガツンと来る。天津飯は上品さよりも下品さが似合う。半ラーメンをスープ代わりに掻き込むのがいい。ここや桂花もそうだがサツマイモの甘炊きを置いている。これはどこの風習なのだろう? 石巻だけ? 宮城?  全国?

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以上17杯。以下は番外。駅前の注受(そそうけ)、大街道の吉野ではメニューに天津飯がなかった。残念。また湊の揚子江、穀町の北園は割愛させていただいた。書くまでもないがグランドホテルの中国飯店もだ。理由は推して知るべし。天津飯だもの。行けなかった店も挙げておく。広渕の龍昇、飯野川の吉華、鮎川の上海楼。別メニューでチャレンジしたい。

ごちそうさまでした。石巻の中華はどこも美味しいです。ぜひ味をお運びください。