港町の山小屋だより

2021年5月、被災地石巻に焼酎と洋楽を楽しむBAR「山小屋」がオープン。東京でサラリーマンをしながら毎週末に石巻に帰ってバーを開く生活を続けて2年。そして2023年4月、37年ぶりに石巻にUターン。昼間の事務職とバー経営の二足のワラジを履くオーナーYがゆるーく情報発信しています。

山小屋は仕事か趣味か〜前篇〜

※ずっと日誌的に書いてきたが、8月18日に宮城県にまん延防止重点措置が適用され、仙台市を除く市町村の飲食店にも時短/休業要請が発令された。この機会に、店をやることの根本問題について、直近の日付で書き留めておきたい。その間の山小屋日誌は後日アップします。

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オリンピック開幕直前に東京が緊急事態宣言(4回目)になり「不要不急の外出を控えろ」と言われるなかで、山小屋営業のために東京と石巻の往復をしている自分はどうなんだろう?と自問自答しながら移動していた。

開店当初は(今もそうだが)「(山小屋は)趣味です」と言うケースが多かった。赤字必至だからだ。家賃、光熱費、仕入れ、交通費で月10万円以上出ていくのに、週末だけの売上で回収できるはずがなく、「やっていけるの?」という周囲の心配に対し自虐的に「趣味」と返していた。

その気持ちは変わらないが、本当に趣味でしかないなら、店を開けることは「不要不急の用」となる。それでも帰りたいのなら、そこは「仕事です」と言い切らなければならない。「お客さんが待っているんです」と。店を開けても客が来なければ結果として「不要不急」となるが、石巻に帰る動機・理由づけとして「仕事」は外せない。外しちゃいけない。この数週間で、そう考えるに至った。

そこへ時短/休業要請が来た。営業は20時まで、酒類提供は19時まで。時短でやるか休業か。店の根幹に関わる。迷った挙句、終日休業とした。2、3時間、店を開けるために東京から石巻に帰るのは効率が悪すぎる。さすがに「仕事」にならない、と思ったのだ。

さらに別の問題が生じた。時短/休業にともなう協力金だ。前年実績がないので中小企業者の最低ライン(1日2.5万円)で申請することになるが、雑所得として課税されるため、売上と合算して税金を払わないといけない。

協力金をもらっても果たして利益が出るかどうか。それも気になるが、そもそも山小屋で得た所得は、本業の給与とどう区別すればよいのか? その場合、交通費は「経費」となるのか? そうした疑問を解決すべく国税庁相談センターに問い合わせてみた。

以下、専門家による見解の整理と備忘のために記録しておく。

国税庁相談員の話】:週末のバー営業のために東京から毎週宮城に帰ってるんですね。協力金の話は脇において、そもそも店の売上が「事業所得」か「雑所得」かを決める必要があります。それによって税金の納め方が違うんですよ。「店の営業が利益を生む事業内容かどうか」を考えましょう。まず従業員は使っていますか? あなた一人なんですね。家賃は当然、平日分も含まれますね。コロナで人を雇えず、平日に店を開けられない状況ですから、現状では「利益が出る」業態とは言えませんね。利益を出そうとするのでなく「赤字でも構わない」という飲食店経営は「事業」でなく「趣味」です。つまり、あなたのお店で生み出される所得は「雑所得」になります。

続いて税金のこと。あなたは給与所得者なので年末調整をして税金が確定するのですが、給与のほかに所得がある場合、事業所得ならば合算できますが、雑所得は合算できないため、確定申告をしていただく必要があります。今回の時短・休業要請で協力金がいくら出るのかわかりませんが、その全額を加味した収支計算で20万円以上の利益が出たら確定申告をしてください。20万円に満たなければ申告しなくてかまいません。寄付金や医療控除などの還付申請をする場合は別ですけどね。で、利益が出るかどうかで肝心な「経費」ですが、家賃はもちろん認められます。経費というのは利益を生み出すために使った費用なので本来なら週末分の家賃だけなのですが、家賃は月単位なので全額認められます。東京から宮城までの交通費ですが、あなたが店を開けなければ営業できないのでこれも認めるしかないですね。その他仕入れや光熱費なども当然経費となり、それらを収支計算して利益が20万円以上出れば納税義務が発生するわけです。ただこれは所得税に限った話なので住民税についてはお住まいの市民税課にお問い合わせください。

非常に明快だった。国民の義務である納税の考え方においても、仕事か趣味かという区分においても、じゅうぶん納得のいく回答だった。

国税庁から見たら山小屋の経営は「趣味」でしかない、ということだ。それは受け入れよう。しかし自分のなかに「これは仕事だ」という自負、確信のようなものがある。「飲み屋ごっこ」と言われればそれまでだが、被災地石巻に山小屋というスペースを作り、一部の関係者(小中高同級生や近隣住民など個人的知り合い、SNSで集まる同好の士たち)が集う場を提供することに、それなりの使命感をもって行動している。どこにでもある店をやってるつもりはない。

山小屋でしか会えない人がいて、山小屋でしか話せない話がある。山小屋でしか聴けない音楽、山小屋でしか飲めない酒を提供したい。山小屋を必要とする客がいるはずなのだ。いてほしい。その客、たとえ一人のためだろうと、片道450kmを何時間もかけて移動し、イオンで食材を買い、シャッターを開け、看板を灯し、音楽をかけ、グラスを磨き、客を待っている。しかも毎週な。これのどこが「趣味」なものか。

いいか国税庁よ、よーく聞け。いまは趣味の範疇かもしれないが、給付金や協力金がなくてもいつか利益を出して、たんまり税金を払ってやるからな。待ってろよ。